バリの両替屋さん

阪神大震災後ポートピアを脱出、そしてバリへ
−バリの出前両替屋さん-

稲垣ミコさん
阪神大震災から5年と29日。バリに住みはじめて5年と25日。
震災3日後、運良く関西空港行きの船でポートピアを脱出、そのまま成田、そしてバリ島に向かった。次の新天地をバリにしようと思った。日本はもういい。
3日間の混沌がそう思わせた。
救援物資がまだ届かないポートピアで人間というものの地獄を見た。
あれが地獄だったと今でも思う。
「もう嫌だった。すさまじいエゴの丸出し、弱みにつけこむ店、3日間のことは
言葉で言い尽くせないわ。」
「よく出る覚悟をしましたね。」
「独身だったこともある。住むところも無くなったのだから、やり直すのだったら、
日本ではなく。日本はもう嫌だった。」
「なぜ、バリ島ということに?」
「バリ島には何度か遊びにはきていたの。いろいろな国には行ったけど、郷愁っていうのかな、ほら、ちょっと通りから脇道なんかに入ると、畑があったり、牛がいたり、昔見たことがあるような風景があるでしょ。
椰子とバナナを除けば、なんか日本とよく似ているでしょ。
食物の味も、おばあさんたちの表情も。ここだったら住めるかなって思って。人も優しいし。」
バリに飛び立った時、何を思っていたのだろうか。
ミコさんはバリ島にきてから新しい生活を始めた。
やがてインドネシア語をどうしても習わないと、と思うようになる。
その時、知り合いから中学校で日本語を教えてくれないかという話があり、インドネシア語をバーターで習えると思い、講師をし始めた。
そして商売を始めたかった。そのためにはインドネシア語が絶対必要だと思った。
したいことがあった。 マネー チェンジャー。日本人の両替商はバリにはいない。
年間25万人の日本人観光客がくる。全観光客数が約100万人なのだ。
バリ島で商売を興す人もいる。
銀行よりも客に有利な値で円からルピア、あるいはルピアから円やドル。
その差益で儲けるのだ。リスクもある。
「安心して両替をやってほしいと思っている日本人はかなりいる」と見込んだ。
事実バリ島で両替をする場合、ホテルでは高いし、町の両替商にはごまかそうとする人もいる。電話1本でホテルまで届ける。これなら安心ができる。
「バリに住み始めて、日本語の講師をしていたのだけれど、生活の糧にはなっていかないし、マネーチェンジャーはおもしろそうだ、と思っていたの。そして研究し始めた。
正規に認可された店としてやりたかったから、その取得は苦労だった。
バリには正規といっても、そこにいたるまでは正規なんてないから。
PT(株式会社)を作ることよりも、一番重要なのは横の、つまり同業者のつながり。
不足する時は貸し借りをするから、その信用性。
同業者とのつながりがなかったらできない世界なのよ。
銀行は銀行の卸値で卸してくれるから、それは全くのこちらが客、だから銀行との苦労はないわ。日本人の方のみ、出前で両替をします。いつでも電話1本で対応しています。」
「儲かる?」
「儲かったときもあったわ。けど今はダメ。ご覧の情勢でしょ。」
「やめたい?」
「いいえ、この世界はおもしろいの。一瞬で値が変わる、いつ手放そうか、いつ買おうか、インドネシア経済の動き、閣僚たちの発言、日本や、アメリカなど諸外国の動き、いつも敏感にアンテナをたてる。そういう情勢からのカケヒキね。
情報通と話をする。新聞を読む。情報を分析し、買い値を決める。
自分の見込みがあたると嬉しい。」
「日本には戻らないのですか」
「この5年間、いろいろあったけど、やっぱりなんだかんだあってもバリが好きなのよね。
腹の立つこともあるけどね。でも日本に帰る気はしない。この仕事はおもしろいし。
それでやっていくことにしている。それにあの神戸の震災での体験は日本への郷愁もぐちゃぐちゃにしたみたいね。時々、お魚などを食べたくて日本に帰る。そんな風にね。」
5年間にはバリ島での生活の中でいろいろなことがあったろう。つぶさに聞きたい衝動にかられるが自制した。
我々は時にいままでの自分を縛っているものから解放するためにすべてを崩壊したい、という感覚に襲われる時がある。これまでの人生をみなおしたい、新しい生き方をしてみたい。
やりなおしてみたい。そう思ってもなかなかできるものではない。縛りがきつくてできるものではないのが普通である。阪神大震災は建造物を崩壊させ、一瞬のうちに近代都市を崩壊させた。
それはまたある人々にとっては、一度人生をご和算にする契機であったかもしれない。
崩壊と解放。崩壊と再生。


ミコさんの出前両替屋
携帯 081 239 138 28
これ1本で日本人なら出前してくれる。電話で両替してほしい金額と換算レートを
教えてくれる。まとまったお金でも大丈夫 事務所 0361-750988 762-388(Fax 共)

 ■リポート: 近藤偵二