01〜0607〜1213〜1819〜23

 13 ゴールデンキャンドル

◆「こころ」はどこにあるか。細胞の全体を「こころ」と呼べば納得できることが多い。皮膚が痒い。こころが落着かない。イライラする。胃がしくしくする。気分が重たい。ちょっとした疵が不快であることもある。
 もちろん細胞は脳とも連結しているだろうから、脳は第二の「こころ」と呼んいいのかもしれないがやっぱり第一は細胞の全体ではないか。
 互いのこころには相性というものがあり、臓器の移植はこころの一部分を他人に移植するわけだから、「こころの相性」があわないと難しいのではないかと思ったりする。
◆「こころ」に関連した花がある。
8月のバリ島を車で走ると、道路脇の湿地帯に自生している。黄色く、内に丸まった花びらがちょうど蝋燭の蝋の模様のように重なりあっている。日本語では「対葉豆」「ハネセンナ」とも呼ばれる。センナとう名前がつくからには薬草なのだろう。
◆なぜかこの植物の下でバリの若い人たちは愛を語る、という。ある人は霊力の強い植物だという。見たことはないが、ランダが手にしている葉だともいう。葉には解毒作用、活性化酸素除去作用、抗ヒスタミン作用があり、アトピーによいと言われ、実際改善している人が多い。バリアンはよくこの葉のことを知っている。日々どこか不調な身体はこころを曇らせる。
◆とっておきの話しがある。この葉を乾かして煎じる。それを肌に塗る。あるいはルルールという米、ウコンクローブなどで作ったボディーマスク用の粉をその煎じ液で混ぜて泥状にする。それを身体に塗り、しばらくして、乾ききらないうちに、擦り落とす。
 肌が白くなる、と言って驚く人が多い。つまり「こころ」がうきうきする。
熱帯のバリ島にはまだまだ知られていない貴重な植物があるのかもしれない。


 14 コーヒー

◆梅や桜、桃や梨、なりものの花は可憐であり、うっすら実の匂いもする。
それに歌もたくさん詠まれているので雰囲気、物語の背景としても、イメージが湧きやすい。コーヒー農園となると、体験がないから、コーヒーの花が咲く頃、人々は何をしているのか昔、農園に従事する人々はコーヒーの花を見て、何を思っていたのか、想像がつきにくい。歌はないのだろうか。
◆コーヒー。バリ島で味わえるコーヒーはコロンビアやブルーマウンテンもあるが、やはりトラジャコーヒー、バリアラビカ、バリエメラルド、バリキンタマーニなどがある。バリゴールドはイタリアンコーヒーのエスプレッソやカプチーノ用である。
◆イタリア人がコーヒー産地に入り込み、栽培から、焙煎までを指導し、バリのホテルに卸しているから、コーヒーの主流は深焙りである。
◆因みに「バリコーヒー」というのは誰がその名をつけたか知らないけれど、コーヒーを美味しく飲む以前の、つまりろ過紙や、コーヒーメーカーやサイフォンを買う余裕がないから、コーヒーの粉をそのままインスタントコーヒーのように湯で混ぜて、上澄みを飲むスタイルのことを言うのだと思う。それに米の粉を混ぜているのもある。美味しいものではない。
 コーヒーはバリでは「コピ」という。コピの花は白く、香りが高く8月上旬が見頃であるがコーヒー農園でしか見ることはできない。


 15 ツンベルギア (Thunbergia)

◆サヌールのバリハイアットでは昔ホテルの庭園内のツアーがあった。このホテルの庭は一冊の厚い写真集になるほど、植物が豊富である。
◆ツンベルギアは目立たないように、朝顔をふたまわりほど小さくしたような薄紫 色の花で、縦に蔓がおりて、花は縦に点々と咲いている。葛草(かずら)の種類だろう。熱帯の庭園はうっそうとしているが、光と陰が植物の呼吸とともに冷気を醸し出す。何気なく目をやると、ツンベルギアがいる。人がここにツンベルギアを置いた。ツンベルギアがここを選んだ。
どちらにしろ、いわゆる「心にくい」演出である。
◆この花の雰囲気はなぜか万葉集にでてきそうな風情がある。大柄であでやかな熱帯に咲く花と趣がちがう。
◆桜のような群になった圧倒感はないのだが、目に時空を越えたイメージを喚起する。そのイメージは女性がひそかに好きな人を想う心の色合いと、不安感のようなものだ。きっと日本語でも素敵な名があるのかもしれない。


 16 クリナン バクン (Krinum bakung, Spider lily)

◆この百合をスパイダーリリーと名付ける英語人の神経がわからない。
「おっ、珍しい花だ、花びらがクモの足に似ているぞ」などと思ったのだろうか。安易で、単純で、無神経だ。そういえば、英語圏人の料理に関する舌も安易で無神経だといつも思うが、こういう分野までもそうなのか、と感嘆せざるを得ない。
◆日本でみる百合よりも繊細で、茎を細く、弱弱しげだが、クモのイメージとかけ離れている。水分を溜めないのか、ちょっと雨が降らないと萎むようになる。生きていけないようになる。姿形を干からびさせるのだ。
◆美人で体力のない女性。繊細な神経の持ち主で、傷つきやすくとも、一途に生きる女性。そんな女性像を昭和の初期頃を舞台にした映画やテレビでみることがある。百合である証の花粉が7、8本長く細い線上にある。この花の全体を引き締めている。


 17 ダダップ (Dadap , Coral Tree)
◆血の色をした舌。深紅のビロード。花びらを採り、それを風呂に浮かべて入ったとしたら、身体は血に染まったようになり、やがて心も血に染まったようになるのか。それはどんな気持ちなのだろうか。未知の体験である。
◆高い木の梢に点々と咲くダダップの花は仰ぎ見る花である。桜の高さに似ている。すると当然向こうに青い空がある。青に深紅の花が点在している。
◆飾り、神へのお供え、癒し、どれも合わない。遠くで美しく、近くでは重厚な存在感で圧倒する。すべてを拒否するほどに主張が強い。本当は真っ赤な熱すぎるほどの感情を持っているのに静かな女性がいるものだが、そう思い、手の平にのせると、姿態がエロティックである。


18 ソカ (Soka, Javanese Ixora)
◆あじさいのようであじさいでない。約60ものしかも十文字の花びらがまとまりひとつの花になっている。色は橙色である。あじさいと同様、色が橙にもかかわらず、雨に濡れると特殊な情緒が醸しだされる。なぜなのだろう。
◆バリ島であるのに陽に似合わない。茂みの中で夜露に濡れている風情なのだ。
◆水があると安心できるという人がいる。池の水、湖の水、川の水、海の水、雨の水、露の水。水という共通項があればよい。それだけで安心できる。
◆花と水の相性は相当なものだが、ソカは水なしでは存在の意味がないのではないかというほどに、水が必要である。乾いたソカなど、ソカではない、と言える。
◆花びらで水をもて遊ぶ。陽を避ける。陰にこもって遊ぶ。手をとって外に引き出したくなるような、水だけが頼りの花である。実は陰にこもることのほうが人間らしい、いや花らしいといってもよさそうな。

01〜0607〜1213〜1819〜23