19.殺戮の熱帯夜

今夜もまた熱帯夜。そろそろ瞼が裏返しになりそう。
本を閉じて枕もとのランプを消す。


カタカタカタカタ...
来た!
カタカタ...カタカタ..カタカタカタカタ


....だめだ、とても朝までこのままにしては置けない今夜中にカタをつけなければ。
こっちが寝てしまった後復讐されたら.....。
よし..。


立つと時を同じくして鳥肌も立つ。
部屋の電気をつけキッチンへとビクビクと行く。
やはりいた..我が敵は2枚組Rp.7,600で購入してきた「ネズミイチコロ・強力粘着ノリ付き木版」に粘着していた。
部屋が明るくなり人が近づいてきてネズミはあせってキューキュー鳴いていた。
聞いているだけではなんともと可愛らしい鳴き声だがこれぞ断末魔の叫びなのだ。


しばらく鳥肌をビンビンに立てながら見ていた。
もがけばもがくほど粘着部分が多くなり事態は悪化していくのにがんばっているのが哀れだがもしそのがんばりが身を結んだらどうしよう。
ネズミ語で「このやろー」とか言いながらネバネバのまま突進して来る筈だ。
そんなことになったらもうドクドクなんか通り越して心臓破裂で即死してしまうだろう。
これはネズミの体の半分を粘着せねば..なんとも頼りないアルミの細い棒でその体を「ネズミイチコロ・強力粘着ノリ付き木版」に押さえるようにして押し付ける。
左半身が粘着してしまいどうしたって絶対身動きがとれない状態になったネズミを突然何を思ったのかその顔や頭をコンコンと叩きのめしていた。
ピクともしなくなったネズミはパパイヤの種のような目でこっちを見ていた。


このまま朝まで放っておこうか..
いや、夜中息を吹き返し復讐されたら....。
今夜中になんとかしなければ。
<ネズミといえば溺死>というくらいネズミは溺死させるものらしいのでどぶへ捨てることにする。
アルミの棒の先っぽでネズミ粘着板を引っ掛けて外へ行く。
なんだか提灯を持っているみたいで小さい頃の七夕祭りを思い出す。


何度も落としながら、でも直接指にその重さを感じたくなかったのでアルミ棒で苦闘した。
さて溝に落とした筈なのだがボチャンとかドボンだとかの水の音がしない。
暗闇を目を凝らしたら溝は干しあがっていた。
「ま、いっか」と家の中へ入ったのだがやはり息を吹き返して復讐されたら...と思い直し再度死体遺棄の現場へ戻る。「犯人は現場へ戻る」というのはやはり正しい。
先ほど遺棄した板をアルミ棒で引っ掛け近くの溝まで行くことに。
しかし夜中にそんなものを持つてウロウロしていると犬に襲われのは目に見えているので目の前の水溜りで済ますことにしてかなり浅い水溜りにネズミ粘着の側を下にして浸してというか漬けてこれで安心、一件落着と家の中へ入った。


ベッドに戻った後も動悸はおさまらず、興奮状態のまま寝付かれない。
...あの「ネズミイチコロ・強力粘着ノリ付き木版」のノリは水に浸かると粘着力を失い、ただの木版に戻ってしまいさっき頭をコツコツ叩かれて気を失っていたネズミも息を吹き返し、水に浸されている己に気付き火事場の馬鹿力を発揮したら効力が弱まつていた粘着ノリなんかは屁でもないと打ち破りイザ..と復讐されたら....
または仲間の殺害を知つた仲間たちが敵討ちに大勢で責めてきたら...なんてことを次から次へと想像し眠れない。


そしてなんと再度死体遺棄現場へと確認のため出向くのである。
2回も現場へ戻るなんてこれが人殺しだったら間違いなくすぐ捕まる。
その以前にこんな気が小さいんじゃ人なんか絶対に殺せない。


なんでだろう...なんだか情けない。