15.ワルンのオバ

ワルンは万屋(よろずや)だ。
何でも売っている。
菓子・果物・煙草・石鹸。
そして食堂でもあり喫茶店でもある。
私はここに毎日行く。
欠かさず行く。
朝・昼・夕と3回は行く。
毎日欠かさず行くところなんてこことトイレくらいなもんだ。


ここのオバが侮れない。
毎日来る常連客のコーヒーの好みを覚えない。
覚える気などない。
さらさらない。


だから毎朝「砂糖は入れずにミルク(これがまたコンデンスミルク)は少ォ〜しね」と注文する。
いちいち言う。
そして毎日「砂糖は大量・ミルクは入れ忘れ」る。
文句を言うと「まぁ、この子は細かいこと言うねぇ。 だったら自分で作んな」と職務を放りなげる。
だから毎朝自分で作ったコーヒーを飲む。


その変に置いてある剥き出しの菓子に手を伸ばす
何だかところところ青い毛の水玉模様になっている。
「やめときぃ。それ2日前のだよ。よく見てごらんよ、カビが生えてんでしょ。何でもよく見なきゃだめだよ」
んなもん置いとくな。


それでは...と果物に手を伸ばす。
「あれま この子は..朝から果物なんて食べるもんじゃないよ」


んでは..とまずいチョコレートもどきを..。
「虫歯になるんだからね!」


−昼。
弁当を買いに出向く。
昼時は忙しい。
オバは1人で店を切り盛りしている。
皿に盛った飯を差し出す。
条件反射で受け取る。
オバにまとわりつく飼い犬を足で蹴りながらあごで向こうに座っている客を指す。
だから運ぶ。
戻る途中テーブルの上にあるピーナツをひとつかみガメる。


ナマケモノなのか向上心がないのか他のモノは料理できないのかおかずは毎日同じ。
そして「また、食材が値上がりしたんだよ。今日から値上がりするからね」 と毎日言う。
でも値段も量も毎日同じ。
言ってみるだけ。
でもたまに量をけちる。
朝、あの後こさえたらしい甘い生菓子をおまけに入れてくれる。
ご飯の上におかずと一緒に乗せてくれる。
どうだ、とばかりニカッと笑う。
私の足を踏んでいる。


−夕方。
夕涼みに行く。
氷水を注文する。
「甘くしないでね」
「甘くない氷水はおいしくないから甘いのにしなさい」という。
器の半分程もシロップを入れる。
アリが2,3匹浮かんだピンク色の毒々しい氷水が出てくる。
「オバ、アリが入ってるよ」
「まぁ、この子は。 何でも口に入れる前によく見なきゃだめだよ」
あんたがよく見ろ。


...「氷追加してよ。 溶けちゃったよ」
「冷たいものは体によくないんだよ。 冷えて後で骨が痛くなるんだからね」


払う。
コーヒーを自分で作ろうが、ウェートレスをさせられようが、注文を却下されようが、アリ入りの氷水を出されようが払う。
毎日値段が違う。
だから毎日聞く。
いちいち聞く。
「..と昼のピーナッツ一掴み分ね」 と手を差し出す。
あなどれない。


「ねぇ、あんたのその髪飾り好きなんだよぉ。 あたしゃ一つも持ってないんだよぉ。ちょーだいよぉぅ」
毎日言う。
甘えた声で言う。
「わかった、わかった。明日ね」
毎日そう答える。


ワルンを後に歩き出した背後からオバは叫ぶ。
毎日叫ぶ。
「こらぁ〜っ、早食いは良くないんだからね!お腹痛くなるんだからねっ!何でもよぉく噛んでゆっくり食べるんだよ!それとねっ、明日から値上げするからね!」


オバ、また明日ね。