11.スーパーマーケット

 1週間に1度、1週間分の買出しにスーパーマーケットに行く。
お腹が空いている時に行くのは浪費の元だが、満腹時にいくのは後悔の元である。
何せ買い物には1週間に1度しか行けないのだ。
たった一時の満腹時に買い物をしたために週の半ばで食料切れ、飲み物切れ、シャンプー・石鹸切れ..などということにでもなったら悔やんでも悔やみきれない。


買出しに行く日はOFFの日だが、OFFだからといっておちおちしてられない。
色々な調整で朝から忙しいのだ。
先ずお腹のコンディションに気を使う。
空腹過ぎず満腹過ぎず。
そしてこの1週間で増えたリストを念入りに再点検。
この時空気は張り詰め緊張状態が部屋を支配する。
手に汗もにぎる。
「後悔先に立たず」という言葉が繰り返し浮かんでは消える。
細心の注意を払って出来上がった<お買い物リスト>。


ところがなのである。
1週間越しの超大作<お買い物リスト>は大抵はテーブルの上に置き忘れてしまい、現地では記憶を頼りにウロウロしたりジーッと立ち止まって記憶を手繰り寄せるのにふけったりしているのであるからどうしようもない。


こんなことは問題ではない。
語りたいのはこんなことではない。 
まぁ、聞け。


 先ず現地へ着く。
外国人であるからジロジロ見られる。
3回に1回はジーッと見られる。
そしてジロジロ、3回に1回はジーッと見返したりしながらカートを押して売り場へ繰り出す。


それぞれの売り場には売り子・従業員がワラワラといる。
菓子売り場では2〜3人が商品の菓子にもたれかかってペチャクチャしている。
肉売り場の男と惣菜売り場の女が中間地点の冷凍食品売り場で落ち逢いイチャイチャしている。
化粧品売り場で腕組をしたままの濃い化粧の美容部員が買い物客をジーッと観察している。


何をしてるのか?
彼女らの職務は一体何なのか?
日本ではリストラ時代から人員削減は当たり前で余分な人員はいないのにここは余分人員だらけである。


「この日本人料理しないんだ。」
「あ〜ぁ、菓子ばっか..子供だよ。」
「まずいし高いしなのにチーズなんて買っちゃって。」
「女の癖に酒なんて飲むよ。」
記憶手繰り寄せ作業で暫しの一時停止状態から再生したら取り囲まれていた。
3人の女子従業員が私のカゴをシゲシゲと除いて話に花を咲かせている。
売り場のピーナッツの袋を破って豆を食いながら...。


「料理はしないよ。チーズは高いけど好きだからね〜」
と、言い残してその場を去る。
「きゃはははぁ〜。言葉わかるんだぁ〜、ちょっとォ〜、きゃははぁ〜〜〜」
無邪気なもんである。


そしてキャッシャーに向かう。
何か買い忘れた気がするのだけれど、絶対に何か忘れているのだけれど、とにかくレジに向かう。


さて問題はここからである。
ここからが難関なのである。
力説したいのはここからである。
聞いて頂きたい。


キャッシャー。
ここを通らない訳にはいかない。
通らないなんてことは許されない。
素通りなんてことも許されない。
そして本日の買い物の出来はここで決まる。


 大体の場合キャッシャーには2人いる。
1人はレジ打ち。
今は打つレジではなくバーコード読み取りで、レジ台のある地点を品物をくぐらせるだけで「ピッ ダッダダダ」と品名、コードNo.、数量、値段と打ち込まれるのだから大した労力は使わない筈だ。
だのにキャッシャー係りの女の子はイバッている。
高飛車で威圧的だ。
ちょっとでも「ねぇ...」などと言おうものなら「なによ、アンタ...この皆が憧れる花形のレジ係のアタイに何の用?」(..と、言っているような気がする)花形職業で高嶺の花(だかなんだか知らんが)にしてはちと品が足りぬ態度で挑んでくる(..ような気がする)。


その横で<次期人事移動の際にはキャッシャー係りに昇進>という夢を密かに抱いているアシスタント....。
直訳すると<袋詰め担当>。
1日も早く<レジ打ちとして華々しくデビュー>という野望の為かどうかは知らないが小鼻をひくひくさせ鼻息も荒くバンバン、ボンボン、と袋に放り込んでゆくのだ。
ビンだろうがカンだろうが、シュークリームであろうが玉子であろうが、プラスチックカップに入ったスープであろうと、汁一杯の惣菜であろうと、この地球に存在する全ての上、下、重力、引力の法則を無視して、とにかく詰める。


2〜3才の子供が丸々1人入りそうなどでかい特大スーパー袋。
地面に届く程の特大袋に詰めれるだけ詰めるのである。
全部詰め終わったその袋は当然持ち上がらない....。
困った犬のような上目使いで見ると彼女はスガスガしい顔をしている。
何かを達成した人特有の満足感に満ち溢れている。
そこで、お抱えの運転手など連れていない私はもうこれ以上は出来ないという低姿勢でおずおずと両手を広げ肩をすくめ「オーッ、ノーォ」というしぐさで相手に訴える。
「持てないのですけど...」
「あぁ〜んッ!もうッ!しようがないわさッ!!」ってな態度でさっきのよりは少し小さめの1〜2才の子供だったらいけそうなスーパー袋2つに入れ替えてくれる。
<放り込む>という手法はそのままだ。


そして目にした恐ろしい光景。
大人でなかったら泣きたい。


惣菜類の汁はこぼれ他のものはべとべと、ぐちゃぐちゃ...。
シュークリームはクリームはブチュ−ッとはみ出てペッちゃんこ。
玉子も幾つか割れてテロテロ。


こみ上げる<殺意>。


でもそんなことで人々の憧れの的であるレジ嬢を殺めたところでなんになろう?
「短気な外国人・逃げ回るレジ嬢をショッピングカートで轢き殺す!」などの見出しで次の日の新聞に紹介され「まぁッ、外国人は野蛮ねぇ」と他の罪のない<在バリ外国人>の名前に傷をつける。
それにそんな理由で刑務所に入ったところで殺人の動機が「ビンものとシュークリームを一緒の袋に詰められてシュークリームのクリームがはみだしぺっちゃんこになったから」という動機では「愛憎殺人」やら「保険金殺人」という何だか立派に思える理由をひっさげた他の服役囚にいじめられそうだからやめておいたほうがよさそうだ。


「あッ、自分で詰めるから...」と言っては無言で却下され続け、「次のレジ嬢を担うサブの私の仕事なの!」という手つきで制され続けてきた。
この迫害の歴史の中、根気よく観察し続け、そして遂にある事実を掴んだ。
どうやら彼女らは<台に載っている一番手元に近い物から順に放り込む>という習性を持つようだ。
その順番を逆算して載せてはどうだろうか。
ナルホド、いいアイディアだ。
そして結果は研究通りだった。


...が人生は山もあれば谷もあるのだ。


キャッシャーの隅に押しやられ「払ったんなら早く立ち去ってよねっ」というレジ嬢と「私の袋詰めテクニックが気に入らない訳?」というサブの威圧視線を横目に、グチャグチャ、テロテロ、ベトベトのもの達を、せっせと然るべき位置に配置し直している外国人女を見たら、それは見事に敗北した時のわしである。