09.ああ、素晴らしき太陽の恵

温暖な気候。燦々と降り注ぐ太陽。人々の陽気な笑顔。神々の住む聖なるトロピカル・アイランド、バリ。恵み豊かなこの島は作物の成長が速い。フルーツの成長が速い。米の成長だって三期作が出来るほど速い。ああ、有り難き太陽の恩恵よ!
そしてその恩恵は人間にも平等に与えられる..のである。


恩恵を受けている爪は成長が速い。深爪状態から日々の生活に支障を来たす状態に伸びるまで2週間である。なんたってあたくしは成長記録を付けたことがあるのだから嘘じゃないよ。 「コンピュ―ターのキーボードを打っていて何度打っても打とうと思ったキーの隣のキーを打ってしまうようになったのですが身体機能に異常を来たしているのでしょうか?」とか、「シャワーを浴びた後ビールを飲みながらポテトチップスを食べていて指に付いた塩を舐めたら何だか石鹸の味がするので指を見てみたら爪の中に石鹸が入り込んでいたのです。どうも最近石鹸が傷だらけなのは自分の爪でえぐっていただけであってネズミの所為にしていた自分を反省したのです。」とか、「ゆで卵を食べようとして普段ならツルッと危なっかしいのにそういえば最近、そんな心配してないなぁ、と思ったら無意識に爪で<突き刺し持ち>をしていたこともありました。」こんな症状が現れるようになったら野放しにするのもソロソロ潮時である。切りましょう。


恩恵を受けているゆえ鼻毛の成長も速い。私は外から帰ってきたら必ず手と足と顔と鼻の穴を洗うのだが、鼻毛が伸びている時は洗った後も鼻の穴の入り口と言おうか出口と言おうか..あれ?一体どっちだ?入り口か?出口か?しかし今はそんなことを追及している場合ではないので、出入り口付近とでもしておこう。まっ、その出入り口付近がですね、なんだかモゾモゾ痒い。どんなに深く指をこじ入れて掻いても痒い。これは「これ以上放っとくと世間に顔を出しますからねっ、いいんですねっ!」という合図であり最終確認であるのは経験上確かである。 「出せるもんなら出してみろぉい」と強気に出て「どうせ大したことは出来るめぇ」と放っておいた明くる日、朝、鏡を覗いたときは平気だったのに、職場で「鼻毛出てるゥ〜」と大声で指摘された。侮れないのだ。しかしやり方が陰険だ。公衆の面前で恥をかかそうとは。この場を借りてついでに言わせてもらうとですね、「鼻毛出てるゥ〜」と大声で指摘した奴もした奴だ。私を陰に連れて行って小声で教えてあげようとかそういう配慮をするべきであった。 「♪〜今日もはみだし、ちゃんと鏡を見たのかい〜♪」という歌が私の為に作曲され暫くの間、社内流行歌として歌われていたこと、そして結構いい曲だったことを付け加えておこう。


垢にだって太陽は平等だ。垢にも色々あるけれど、耳クソ...じゃなかった耳垢が最も成育が速いようで爪垢と1,2を争っている。耳ホジするのが人生の一番の楽しみってくらいこれに賭けている人が多いのは周知の事実である。毎日でもしたいけど収穫の喜びに差し支えるから1週間に1度とか、もっと喜びに打ちひしがれたい人は待ちに待って2週間とか、人それぞれに細密にスケジュールを立てているらしい。そんなライフプランをもっと、より現実化したい人はバリにきなされ。神々の住むトロピカル・アイランドへ。2〜3日に1度は人生の喜びに浸れることでせう。仮にあなた、1週間なんか放っといてみィ〜。耳は遠くなるわ、耳元でワサワサする耳垢を幻聴と思い込んでしまうわ、ホジリ始めたら綿棒が10本は使うわで、精神的にも経済的にも良くない..どうしよぉ〜ん、という嬉しい悩みで胸が一杯になることでせう。


目クソ..じゃなかった目垢というのは同じ垢仲間の中でもちょっと訳アリな感じなのでそっとしておく。
それがやさしさってもんでしょう?


ヘソは大体いつも隠れているから、太陽の恩恵とは無縁な薄幸な生涯だと思うでしょう?
思ってたでしょう?思ったはずだ。それが不思議と関係があるらしい..(知らんが)。その科学的根拠は未だ解明されてはいないらしいが、こんなにも進んだ今日でさえ未だ化学では解明できないことは多いではないか。いずれにしろ太陽は常に平等なのだからヘソが薄幸な生涯かどうかはご心配なく。ヘソゴマは放っておいたからって腹痛を起こすとか、便秘になるとか、そういった不便は生じない。おそらく2〜3年放っておいたってゴマが溢れだすことすらないだろう。ただその後の掃除が大変だと予測される。ただでさえヘソゴマは臭い。
それが2〜3年分である。どんなことになるやら。お香でも焚きながらすることですね。


産毛は一番まともに恵みを受けているのではないだろうか?個々は、その陰の薄い目立たない性格、華奢な体つきで第一印象では何びとにも不愉快な思いを与えることは先ずない。それどころか微笑ましい印象さえ受ける。ところがどっこい。徒党を組むと途端に手に負えない性格に変わってしまうのはどうしたものだろう?まるでグレムリンではないか。<ギズモ>から<グレムリン>、 <産毛>から<むだ毛>へと、その名前さえ変えてしまうところも同じだ。そして世の女性達、最近では男性達にも嫌われる始末。今朝も 「あれ?昨日剃った筈..」なのに、鏡の中の私は<A LADY WITH 口ひげ>と化していた。


数年間のBali生活で私の身体はみごとに変化した。長年のビーサン生活で培った、今ではビーサンしか似合わない、蚊にも食われなくなった<ばんびろ足>を眺めながら、これは進化と言うべきなのだろうか、それとも退化と言うべきなのだろうか思い悩んでいたら、ふと目に付いた長い爪..、そういえば最近耳の聞こえも悪い..鼻もムズムズする..。


ああ、恐るべし太陽の恵み!